長野日報 (Nagano Nippo Web) - ニュース -
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緊急避難時に必要なのは危険を察知して助け合える隣近所のつながりだった―。土石流に見舞われ、7人の犠牲者が出た岡谷市湊小田井地区で、自らの判断や地域住民の知らせで避難した人が91%に上ることが、長野日報社とLCVが共同で実施したアンケート結果で分かった。土石流に突然襲われ、避難を呼び掛け合った住民の姿があらためて浮き彫りになった。56%が地域住民による防災の重要性を指摘している。防災の日の1日、同地区は避難勧告解除から1カ月を迎えた。落ち着いた生活を取り戻すことができない住民が49%に上るなど、土砂災害との格闘は今も続いている。
土砂災害に対する認識については「なかった」が87%、「あった」は13%だった。あったと答えた人でも、土手などの「土砂崩落」は想定したが、「土石流」は警戒していなかった、とする人が多かった。
避難のきっかけを5項目で聞いたところ、「地域住民・消防団員の呼び掛け」(47%)と、土石流を見たり家屋に土砂が流入し「危険を感じた」(44%)が圧倒的に多く、避難せざるを得ない状況に追い込まれてから対応したことがうかがえる。
避難場所は「湊小学校」だが、土石流が地区を分断したため、26%が反対方面の「久保寺」「岡谷南部中学校」や、親せき宅などに逃げた。68%は湊小にたどり着けたが、上流に向かう途中に被災して家に戻れなくなり、家族が離散した世帯もあった。避難所では安否確認に手間取ったり、避難確認ができないことがあった。
非常持ち出し品を準備していて「持ち出せた」が25%にとどまり、「準備していなかった」は64%に上った。これについては、92%が災害を経験し「防災意識が変わった」としており、非常持ち出し品を準備した世帯がほとんど。気象情報を注意したり、誰が何を持ち出すか、どこへ避難するかなどを家族や近所で話し合っている。
避難所で困ったことは、共同生活によるストレスが31%で最多。「情報の入手」(19%)、「健康管理」(13%)が続いた。災害時に必要となる情報を複数回答で聞いたところ、「自分の家や地域の現状」が39件で最も多かった。
ライフラインの復旧状況や気象情報、対策本部の動きなども目立ったが、一様に「今日は何をしていて、明日はどうなるのか、を明確に伝えてほしい」といった声が多かった。
避難勧告解除後について、自宅の復旧作業の協力者は「ボランティア」が49%。次いで「親せき・家族」が22%だった。一方で「ボランティアはありがたいが、休めないで疲れてしまっている」といった声もあった。
生活再建の現状は、「めどがたたない」が32%で最も多く、「もうしばらく」が17%。避難勧告解除から1週間で19%、2週間で21%、直後に11%が落ち着いた生活を取り戻している。
住民の43%は「災害への恐怖」を抱えて生活しており、雨が降ると眠れない人もいる。「家屋の修復」(17%)「支援制度の説明」(9%)「生活資金」(7%)への不安も続いている。
今後の行政に求める対応(複数回答)は、砂防えん堤などの「治山治水事業」が45件で最多。災害直後の災害対策本部と被災地の「情報伝達体制の整備」が22件で続いた。被災者支援施策の充実(16件)や地域防災体制の強化(13件)を訴える声も目立った。
市の対応 評価分かれる 7月豪雨災害における岡谷市の対応については、住民の評価が分かれている。避難所運営や復興支援への取り組みを高く評価する一方で、災害が発生する前後の危機管理や情報伝達に課題があると指摘する声が多い。行政対応について聞いた。
7月豪雨における岡谷市の対応を聞いたところ、「被害が拡大したのは事前に対応しなかった行政の責任」とする人は31%、「そう思わない」は34%だった。「どちらともえない」が35%。「専門的な立場から危険を知らせるのが行政の役目」とする一方で、「過去に例のない突発的な災害で行政にも予測し得なかった。仕方がない」とする声もあり、評価は分かれた。
「無防備だった住民にも責任がある」は48%、「そう思わない」が16%だった。仮に土石流発生前に避難勧告が発令されたら、「被害は大きくならなかった」とする人が35%、「そう思わない」は34%。「発令直後の避難中に土石流が発生したら、さらに大きな被害が出た」とする指摘もあった。
避難勧告が出ても「住民は避難しなかっただろう」が35%、「そう思わない」は39%だった。「危険なときには結果が違ってもいいので情報を出してほしい」との声がある一方、「しぶしぶ避難した」人もいた。住民に負担を強いることになる避難勧告の判断が難しいことをあらためて示した。
防災の取り組みについては「責任を押し付けあうのではなく、住民と行政が協力することが重要」とする意見が91%を占めている。
行政に対する意見や要望には▽被災者に必要な情報提供を▽雨と土石流で防災無線が聞こえなかった。光で知らせる装置を考えて▽被災後の対策本部の判断が遅かった。ある程度は現場で判断できるようにしてほしい▽土木などの技術職員や危機管理の専門家を中心に災害対応すべき▽避難勧告という言葉は子どもには分からない。小学生でも分かる避難マニュアルを―などがあった。
被災の教訓としては▽枝垂れ桜が残り、土石流を弱めたと思う。根の張る木を植えるべき▽自分の住む地域の地形や、それが形成された由来を知るべき▽地形や水の流れ、土地の特徴を考えて家を建てるべき▽隣組単位の防災訓練を▽過去の災害を語り継ぐことが一番大事だ―などが挙げられた。
◇林新一郎市長の話
行政にも「おとなしい沢だ」という油断があった。反省している。ただ局地的な雨では、行政が市内全域に責任を持つのは不可能。避難勧告は山の状態や区長の情報を得て早めに判断すべきだ。正確な情報を収集し、適確に素早く対応することが重要になる。行政は常に緊張し、気象情報に注意しなければならない。反省を記録し、未来永劫語り継いでいく。
◇地元花岡区の小口区長の話
1人ひとりの心の備えが重要だ。町内が分断され、防災備品を届けることができなかった。公民館ごとに備品を置きたい。隣組単位で危険を判断し、避難する「最少単位の防災」を考えていく。そのためにも、昔ながらの助け合いや近所付き合いが必要だ。
■調査方法=大規模な土石流が発生した小田井沢川流域の避難勧告区域90世帯を対象に、長野日報社とLCVの報道記者が各世帯1人から聞き取り調査をした。質問は「災害発生前の防災意識」「避難・初動」「避難所の生活」「避難解除後の生活」「行政対応」に関する13項目。
調査期間は8月22―28日。不在宅など除く有効回答は63人で、回収率は70%。
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